結婚に愛はあるのか?
「医者から、聞いたんだな」

誠治は困ったように笑った。


「…どうしてこんなになるまで放っておいたの?

・・・一人で抱え込んで…苦しい顔一つしないで」

春子は泣いていた。

・・・そんな春子の手を誠治は優しく握りしめた。


…誠治は、ずっと心臓に持病を持っていた。

だが、春子には何一つ、その事を知らせていなかったのだ。

…春子に負担をかけたくなくて。



「…私の心臓は、あとどれくらい持ちそうだって?」

「…持って・・・一年」

「・・・そうか・・・意外と短いな。

もうすぐ死んでいく男と、一から恋をやり直すなんて嫌か?」


「嫌なわけ!・・・嫌なわけないじゃないですか」

「こんな体じゃ、君を抱けないがな」

「…バカ言わないで」


…二人は見つめ合って笑った。

苦しい時間が長すぎた。

それなのに、幸せな時間はとても短い。

でも、それでも、互いに愛し合えるなら、時間など関係なかった。
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