結婚に愛はあるのか?
・・・病院から戻ったオレは、頭を抱えていた。

倒れた父親。…もう長くないと聞かされた。


…オレに愛などくれなかった父親がどうかなっても、

知ったこっちゃないとずっと思ってきた。

・・・でも、そうじゃなかった。…そうする事は許されなかった。


松田誠治の子供は、オレただ一人だけだ。

今副社長をしている安西では、社長の器はないと聞いていた。

だからと言って、この俺が、あんな大きな会社の社長などやれるのだろうか?



「…陽介、どうしたの?」

お腹を支えながら、オレの横に腰を下ろした愛。

・・・もし、オレがあの会社の社長になれば、色んな面で、

愛が大変な思いをするだろう。

愛には、穏やかな生活を送ってもらいたかった。

専業主婦をして、子供を育てて、好きな趣味を見つけて・・・

そんな穏やかな生活。・・・だが、この道を進めば、それは叶わないだろう。

社長夫人として、何かと忙しい日々が待っている。



「…愛」

オレは愛の手を優しく握りしめた。

そのオレの手を、愛はもう一つの手で包み込んだ。
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