祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
イノリは学校からの帰り道、近くの公園に寄った。


誰もいない公園のブランコに座ったイノリは、薄く星の出る空を眺めていた。




「…ケンのバカ野郎。キヨとヤりたいとか言うなよな。無理矢理抑え込んでる俺の欲まで出てくるじゃねぇか」






イノリも物心ついた頃からキヨの事が好きだった。

好きだけでは済まされないくらいに大好きだった。




けれど、大切なものを手に入れると待っている結末は失う事だけだから…

イノリは気持ちを隠し続けていた。






「…平然を装うのは辛いな。ただ一緒にいるだけじゃ…もう満たされねぇよ」





欲しくて欲しくて仕方ない女の子。

一秒だって離れたくない女の子。



大切過ぎて好き過ぎて
溢れ出るこの欲望で汚してしまいそうで恐い。



だからキヨには触れられない。



今抑えている欲の歯止めが利かなくなるから…




でも誰かに取られてしまうのは嫌だ。



俺は何がしたいんだろう……




これがイノリの本音だった。







キヨの何がそんなに好きなのか。

一緒にいる時間は同じなのに、何故カンナじゃなくてキヨなのか。



そんなこと聞かれても困る。

そんなものわかるものなら誰か教えてくれ。





…ただ好きだと想った。


すっげぇ顔で泣く泣き顔も
目がなくなるくらい笑う笑顔も
俺を呼ぶ声も、全部。





物心ついてから、ずっとそばで見てきたんだ。

今更手放したりなんか出来ない。




あの泣き虫で甘ったれな女の子を守りたい。

守ってやりたい。





…でも、そんな純粋な気持ちだけじゃない。



俺の心の奥底では欲望が渦巻いている。

キヨを抱きたいと叫んでいる。




こんな汚い俺は、純粋でお綺麗なキヨに触ってはいけないんだ…






イノリが葛藤と闘いながらブランコで俯いていると、男女の言い争う声が聞こえてきた。
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