祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
嫌だ…
嫌だ……


キヨが他の男との子供を生み、家庭を持つなんて嫌だ。



キヨの幸せを願っているはずなのに、俺の知らない幸せなど掴んで欲しくない。




「………イノリ?どうした?」

「…生ませない!生ませてたまるか」




イノリはカゼを睨みつけると立ち上がり、キヨに電話を掛け始めた。




「………キヨならつわりが酷くて寝てるよ」

「うるせぇ!黙ってろ!!」



中々電話に出ないキヨ。



イノリは電話を掛けながらキヨ達の住む家へ走っていった。




「………イノリ…遅いよ。もう少し早く気付いてくれたら、こんな事にはならなかったよ」



カゼはイノリのアパートの前に立ちながら、イノリが消えた方を見てそう呟いた。




この間まで住んでいた家に着いたイノリは、勢いよくキヨの部屋へ入った。


顔色のすぐれないキヨは、苦しそうに息をしながら眠っている。



「……?ヤニくせぇ」


ぐるりとキヨの部屋を見渡したイノリは、テーブルに置いてある皿に、自分が吸っている銘柄の煙草の吸い殻が山になっているのに気が付いた。


吸った形跡はない。




イノリはキヨがただ焚いていただけらしい煙草の意味を知った。




「…どうしてお前はそんなに俺を…」




イノリはキヨが煙草の匂いで、イノリの存在を消さまいとしていた事を痛感した。





「……っイノリ…」



イノリの匂いを感じたからなのか、突然キヨがグズり出した。



寂しい時、甘えたい時、いつも隣で抱きしめていてくれたイノリが恋しくて…。
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