祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
イノリはキヨをベッドから引きずり降ろすと、強く抱きしめた。


キヨの体の感触は体に馴染んでいたはずなのに、久しぶりに抱くキヨの体は知らない感触になっていた。




「キヨ、お願いだから…まだ誰のものにもなるな。…まだ嫌だ。今はお前の幸せを願ってやれない」




イノリは青白い顔をしたキヨを見ると、キヨの白い首に手を回した。


イノリの大きな手は、片手だけでも十分にキヨの細い首を掴める。




「…誰かに取られるくらいなら……いっそのこと、永遠に俺だけのものにしてやる…」




イノリは色を失った瞳でキヨを見つめると、ゆっくりと手に力を入れ、キヨの首を締め始めた。


キヨの顔が歪む。







どうしてただ好きなだけなのに

こんなにも全てがおかしくなってしまったのか。




どうして相手の幸せを願うと

比例するように自分の幸せも願ってしまうのだろうか。




締め付けている手に涙が零れ落ちた事に気付くと、イノリはキヨの首から手を離した。




「げほげほっ!!はぁっ…はぁ…イノリ…?」



キヨはむせりながら勢いよく息をすると、顔を震える両手で押さえながら天井に向けているイノリの存在に気付いた。




「イノリ、どうして…」

「嫌だ…お前がカゼの子どもを生むなんて嫌だ。他の男に取られたくない」



次第にイノリの指を伝って流れてくる涙。




狂おしいほど誰かを愛した時、人は欲求不満をぶつけるかのように、高ぶる感情に我を見失う。



誰にも見せたくない
誰にも触らせたくない
誰にも渡したくない


自分だけがその存在を感じられればいい。




イノリの感情はキヨを思うばかりに、歪みはじめていた。
< 141 / 479 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop