祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「大丈夫だよ。生んだりなんかしないから。愛のない関係から生まれる子どもが可哀相よ。…それに今の私には子どもを生む勇気はない。…堕ろす勇気もないけど」



キヨは涙を流すイノリの背中を優しくさすった。




カゼの事は好き。
だけどそれは恋愛感情ではない。

カンナやケンに対する気持ちと同じ。



カゼも私に恋愛感情はない。

だから…





「カゼは優しい。昔からわかってた。私はその優しさに縋って今まで生きてきた。だけど…これからは誰にも甘えずに生きていくわ」


「…キヨ」




いつからこんなに逞しくなったのだろう。

いつからこんなに強くなったのだろうか。



この小さな女の子は
泣き虫で
甘ったれで

俺がいなきゃ生きて行けなかったはずだ。



いつも俺のそばにいて
いつも俺だけに甘えて
いつも俺の名前を呼んでいたのに

いつ俺の手を離した?



いつからこんなに…








イノリは自分がいないとキヨがダメなのではなく、キヨがいないと自分がダメなんだと気付いた。





「…私はもうイノリを責める事は出来ないよ。お姉ちゃんの事も。何してんのよって思ってたけど、私も同じ事をしたんだもの。カゼを巻き込んで、カンナとケンを裏切った」



イノリは震えるキヨの体を抱きしめた。


キヨは大好きなイノリのぬくもりを感じると、涙が溢れてきた。




「イノリ…大好きっ…大好きだよ!好きで好きでたまらないっ!!…殺してくれて構わなかったのに!イノリなら構わないのに!!殺してよ…あなたの手で!!さっき、あのまま……」


「殺せるわけないだろ、お前を」




2人は触れるだけのキスをした。

今はそれが精一杯だった。
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