祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
夕方の空は、雲が夕日に反射していて一面がオレンジ色だった。




「…倉木美月か。そんなに悪くないかな。…北山美月になりたかったけど…」




キヨは空を見上げながら河川敷を歩いていた。





自分が望んで犯した過ちのせいで沢山の人を巻き込んでしまった。



本当に、イノリと同じ罪を背負う事になるとは思ってもいなかった。





「中絶か出産か。…私はどうしたいんだろう…。本当は中絶した方がカゼやカンナの為になるよね。…でも私に、命を殺す勇気はない」




キヨは夕日が沈み、暗い空に月が浮かぶまでただその場に突っ立っていた。

次第に風が吹いてくる。





「カゼとの子どもだもん。きっと…綺麗で可愛い容姿端麗の子が生まれてくるよね。親として鼻が高いわ…」





…違う。

私が描いていた未来と違う。



どんなに可愛い子を授かっても
どんなに素敵な人と結婚出来たとしても


私はそんなもの望んでなんかいなかった。





私の描いた未来にはイノリだけがいた。

イノリがいるだけで幸せだと思った。


綺麗なものや素敵なものなんか要らない。



欲しいのはイノリだけ。
他には何も要らない。






「…ごめんね。私…あなたを産めないや…。何を犠牲にしても、私はイノリがいいみたい。だから産んであげられない。…ごめんね、ごめんなさいっ!」




キヨは下腹をさすりながら呟いた。




例え手に入らなくても

もう求める事が出来なくても……


私にはイノリという存在が必要だよ。





だから彼以外の人と未来を築いていきたくない。

築けないよ…。
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