祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「………カンナ、今から帰るから、俺が帰ったらデートの続きしよう」

「…仕方ないわね」

「………指輪。買いに行こうか」

「指輪?…本当に?」



カゼの言葉にカンナは涙を流す。


電話口で、ケンとキヨがヒューヒューとカンナをはやし立てる声が聞こえる。





「………急いで帰る。待っててね」

「うん、待ってるよ」

「………色々あったけど、俺が今好きなのはカンナだからね」

「私もよ、カゼ」




電話を切ったカゼは家に向かって車を走らせる。


カゼは指輪を選びながら喜ぶカンナを想い浮かべ、柔らかく微笑んでいた。






しかし、その時――…



赤信号なのに直進してきた車がカゼの車に勢い良くぶつかった。



それは一瞬の出来事だった。




カゼは接触した衝撃で頭を強く打ちつけ、意識が薄れる。

微かに聞こえるのは心配する人々の声。




「おい!!大丈夫か!?今救急車呼んだから頑張れ」

「救急車はまだか!?」

「出血が酷い!!誰かタオルはないか!?」




救急車の到着を待ちながらカゼと、接触した車の運転手に声を掛ける歩行者。



カゼはどこからか流れてくる血を力が入らない手で触った。





血は赤くて温かい。


自分の体にはこんな液体が流れていたのか…と、薄れていく意識の中カゼは思った。
< 219 / 479 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop