祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
あぁ…
痛みまで薄れてきた。

死ぬってこんな感覚だったのか。


兄貴もこんな風に死んだのかな…



兄貴。
そんなに俺が憎かった?
そんなに俺が嫌いだった?



俺を幸せにするものかと、同じ所に連れて行こうとしているのか?




俺は幸せになりたいんじゃないよ。

カンナを幸せにしてあげたいだけなんだ。





……カンナ。

ごめんな。
指輪買いに行けないみたいだね…

本当にごめん…




お願い。

誰か俺の代わりにカンナを幸せにしてあげて…






キヨ…
ケン…
イノリ……


みんなと会えてよかったって、みんなに伝えたかったよ。


最後にもう一度、5人で過ごしたかったなぁ。





キヨ。色々ごめんな。

でも俺はキヨとの子どもをこの腕で抱きたかったよ。


キヨとの子どもなら愛せると思えたから。




でもキヨは、どんなに辛くても何があってもイノリだけを想ってる。

俺は気付いてたよ。




キヨ、大丈夫だ。

イノリは必ずキヨの元に戻ってくるから…


辛いのは今だけだからね。大丈夫だよ。



だからイノリが帰ってきた時は、もう強がったり意地を張らないで、ただ素直に『おかえり』って言ってあげて。






何だか腹も減ってきた。
死んだ後って何が食えるんだろう?





ん?
風が吹いてるね…

俺もこの風と共に消えるのか。


そうだね、風になりたいかも。




風は色も形もないから見えないけど

涙で濡れるカンナの頬を乾かしてあげられる。


みんなが道に迷ったら、歩むべき道を教えてあげられる。



そういう存在になりたい。






あぁ…
そろそろ時間みたいだ。

眠たくなってきた。





あ。
ケンにCD割ったの謝らないと。
車も大破しちゃったし。




………うん。

どうやって謝ろうか起きたら考えよう…






……………おやすみ。
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