祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
何もない黒いだけの空に黒い服を着たキヨとイノリ。


世界は黒一色に包まれていて静かだった。




「…キヨは消えたりするなよ。お前は…突然死んだりしないでくれ」


「イノリもだよ。死んじゃ…嫌だよ。イノリがカゼみたいにもう動かない姿なんか見たくないよ…」


「大丈夫。お前が生きてさえいてくれれば俺は死なない」



キヨが暗闇に浮かぶイノリの瞳を見つめると、その瞳からはきらきらと光るものが流れていた。


キヨがそれに触れようとすると突然、強い風が吹き抜けバランスを崩す。




「……イノ…リ」



転びそうになったキヨはイノリの胸に倒れた。

そんなキヨをイノリは抱きしめる。




「……キヨ。愛してる」



その言葉は長年隔てあってきた2人の世界を繋げる言葉。


キヨに永遠に変わらないものをイノリが教えた瞬間でもあった。





イノリはそれだけ呟くと、キヨの肩に顔を埋めて泣き始めた。



キヨは大きなイノリの背中に腕を回すと、キツくイノリを抱きしめた。




大好きな体温。
大好きな匂い。
大好きな存在。



どんなにケンに愛されても
どんなにケンを愛そうと思っても

この腕に抱きしめられたら最後。



結局この人を忘れるなんて出来ないんだと思い知らされてしまう。




イノリじゃなきゃ駄目なのだと

イノリじゃなきゃ満たされないのだと


心が、体が…叫ぶ。






その気持ちは物心ついた頃から分かっていたのに


いつしか忘れていたキヨの中に再びちゃんと戻ってきた。
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