祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
ある日、イノリはリビングで父と話していた。



「お前は将来就きたい職業とかないのか?」

「何だよ、いきなり」

「もう高3なのにフラフラしてるからだ。母さんも心配してたぞ。1人息子なのにってな。お前も男なんだから少しはしっかりしてくれ」



父が溜め息をつくとイノリは父を睨んだ。




「うっせぇな!俺には将来の夢なんかねぇんだよ。悪いか!?」

「夢を無くしてお前は何の為に生きてるんだ?」

「…何の為って…」



イノリと父が言い合っていると、母がやってきた。




「祈。焦る事はないわよ。あなたはまだ若い。お父さんも祈を追い詰めるような事言わないで」


「俺は心配してるだけだ。こんな飄々と生きてて祈がダメにならないかってな」


「将来の夢なんて考えた事もねぇよ。…ただあるとしたら、キヨを一生守ってやる事だ」



イノリはそう言うと部屋へと入っていった。




「キヨってお隣さん家の美月ちゃんの事か?」

「そうよ。祈は自分より美月ちゃんを大切にしているから。ずっと昔からね」



母の言葉に父は微笑んでいた。







「美月。あなたもう高3だけど、将来どうするのよ」



同じ頃、キヨも母に同じような事を聞かれていた。




「今の成績じゃいい所に就職なんか出来ないわよ?大学だって入れるかどうか」

「うるさいなぁ!私の夢は“イの付く人のお嫁さん”だから頭悪くてもいいの!」



キヨはキッと母を睨みつけると、自室へと走り去った。




「…イの付く人のお嫁さんだなんて…。祈くんが貰ってくれればの話でしょうに。美月は昔から本当に祈くんが大好きなんだから」



母は呆れたように呟きながらも、どこか嬉しそうだった。





高校3年生。

何も考えず、ただ5人で過ごせていればよかった彼らの時間はゆっくりと変わり始めていた。
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