祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
夏に向かいつつある季節。

キヨは孤独感に包まれていた。




そのワケは

カゼが部活の遠征、カンナが交換留学、ケンはバンド仲間と好きなバンドのライブに行き、イノリは法事で祖父母の所に泊まりがけで出掛けていたからだった。



その上キヨの両親も結婚記念日で旅行に行っていて、華月もいない。


キヨは本当に一人ぼっちだった。





賑やかな生活に突然訪れた静寂。


キヨはベッドの上で毛布にくるまりながら、孤独と戦っていた。




「……カゼ…カンナ…ケン。………イノリっ」



物心ついた頃から4人が同時にいなくなる事など一度もなかった。



初めて感じる孤独感に耐えられなくなったキヨは、とうとう泣き出した。



「うぇぇっ…!!みんな早く帰ってきてよ〜…バカぁ…アホ〜…」



キヨが枕に顔を伏せて泣いていると、ベランダのドアを叩く音がした。




「ひゃっ!?何?え!?ベランダ?」



誰もいないはずなのにコツコツと鳴る窓。


キヨは顔面蒼白しながらゆっくりとカーテンを開けた。




「―――!!!!」

「やっぱり泣いてた。この泣き虫。だからお前泣きボクロが出来んだよ」

「なっ…なんでいるのぉ?」

「お前を一人にするかよ。親に黙って勝手に帰ってきちまった」



バルコニーにいたのはイノリだった。


イノリは泣きじゃくるキヨの泣きボクロをつつき笑うと、優しくキヨを抱きしめた。



キヨはイノリの胸で涙を拭きながら、イノリにしがみついた。




「寂しかったよぉ…みんな一斉にいなくなるんだもん。私、一人ぼっちなんて嫌だぁ…」


「キヨは一人ぼっちなんかじゃねぇよ。…それにほら、アイツらも帰ってきたぞ」


「…え?」




イノリがベランダから玄関を指差すとそこにはカゼとカンナ、ケンが2人に手を振っていた。
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