祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「痛ーい!!イノリのバカ」

「お前がジャンプしろって言うからだろ!…大丈夫か?」



イノリはキヨを引き起こすと、頭を撫でた。




「…ふふっ。面白かったね♪」

「何がだよ」

「小さい頃、よくイノリにおんぶして貰ったよね。それ思い出しちゃった。私がイノリの背中でおもらしした事とか」

「お前は自分の失態を軽々しく口にするなよ」



キヨはイノリの肩を叩くと、公園のブランコに乗り漕ぎ始めた。


昔と何ら変わりのないキヨの仕草にイノリは微笑んでいた。





「あ。にゃんこ!」



キヨは茂みから顔を覗かせている子猫を見つけた。




「…ガキの頃さ、キヨが野良猫拾ってきて『飼うんだ!』って泣き喚いてたよな」


「そんな事もあったね。麦わら帽子に隠して家に持ち込んだのお母さんにバレて…勝手に捨てられちゃって、泣きながら5人で探したんだよね。なんで子どもって野良猫や野良犬を拾って来ちゃうのかな」



動物を飼いたいから?

守られてばかりいる子どもの自分が、守ってあげれる存在が欲しいから?






それはまだ5人が小学生の頃。

イノリ、カゼ、カンナ、ケンが家の前で遊んでいるとキヨが麦わら帽子を抱えて走ってきた。



「キヨ、どこ行ってたのよ。散歩?」

「おかえり、キヨ♪キヨも八の字跳びして遊ぼうよ」



キヨは無言のまま首を横に振った。


イノリはキヨに歩み寄ると、大事そうに抱えている麦わら帽子の中を覗いた。



「…は?猫?」

「そう、土手の木の下で泣いてたの。だから私が飼ってあげるの」

「でもお前んち、父ちゃんが動物嫌いだろ?」

「…だって独りは可哀相だもん」



キヨは麦わら帽子を落とすと子猫をギュッと抱きしめた。
< 311 / 479 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop