祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「あれ?イノリは!?」

「あー、何か女の子に呼び出しされてたよ」



その言葉を聞いたキヨは眉を寄せ、悲しそうな顔をした。




「早く捜して来なさいよ。イノリのネクタイ、誰かに取られちゃうわよ?」

「カンナ……」



優しく背中を押してくれるカンナを見たキヨは頷くと、イノリを捜しに学校中を走り回った。




「イノリ!!イノリどこっ…」



キヨが走っていると、聞き慣れたイノリの声が誰もいない教室から聞こえてきた。




「何だよ、話って。カゼとの仲を取り持ってくれとかいう話なら勘弁してくれよ」

「違うよ!…北山くん、私と高1の時同じクラスだったの覚えてる?」

「…ん〜。悪い、わからねぇわ」

「そうだよね。北山くんはいつも清田さん達といたから、他の人なんて覚えてないよね」



キヨは、この女の子はイノリの事が好きなのだろうと察した。


しかし当のイノリは面倒くさそうに話を聞いている。




「私ね、ずっと北山くんが好きだったの。卒業したら会えなくなるなんて嫌だよ。北山くん東京行っちゃうんでしょ?寂しいよ…。だから私と…付き合って下さい!」



女の子は泣き出してしまった。



キヨはイノリが涙に弱い事を知っている。


女の子の涙に負けて付き合ったりしてしまわないか心配になった。




「…悪いな。俺がそばにいねぇとぐずり出す世界一泣き虫な女がいるんだよ。だから誰とも付き合えない」

「それって清田さん?」

「…さぁな。でもその泣き虫さんを泣きやませる事が出来るのは俺だけだ」

「大切なんだね、その人の事」




イノリは無言のまま頷いた。
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