祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「…じゃあ思い出にネクタイ頂戴よ。それくらいいいでしょ?」



女の子がイノリのネクタイを外そうとすると、イノリはその手を振り払う。




「俺がネクタイしてなかったら、きっとその泣き虫さんが拗ねて泣くからやれねぇや。…悪いな、何もしてやれなくて。じゃあ俺戻るわ」



イノリが女の子に軽く手を挙げ教室から出ると、教室のドアの前にうずくまるキヨがいた。




「は!?キヨ?何でお前ここにいるんだよ!?」

「……イノリのネクタイ貰いに来たの。…でも先越されちゃった…」

「だから泣いてるのか?…バカだな」



イノリはうずくまっているキヨを立たせると、キヨの付けているリボンを取り、自分のネクタイを結んだ。




「お前ネクタイ似合わねぇな。チビだからか?」



イノリは腰を曲げて屈みながら、キヨに結んだネクタイを丁寧に整える。




「…イノリ?ネクタイあげたんじゃないの?」

「は?あげてねぇからお前に巻いたんだろ」

「だって……イノリは涙に弱いから。付き合えない代わりにネクタイくらいあげちゃいそうだもん」

「俺別に、涙に弱くねぇけど」




イノリはそう言うと、カンナ達がいる廊下へと歩き出した。
< 413 / 479 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop