祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
ケンが病院を出て行くのを見送ったカンナは、手術室の前で立ち竦むカゼの隣に立つ。




「カゼ、実はね…お兄さんは…」


「…………え?」


「お兄さんはもう…亡くなったのよ。即死だったみたいで、病院に搬送された時は既に…。カゼのおじさんとおばさんは霊安室にいるわ」




カンナの言葉にカゼは笑う。




「………カンナ、こんな時にその冗談は笑えない。だって手術室のランプ付いてるよ?」

「今手術室の中にいるのは事故った相手よ。お兄さんじゃないわ」




カンナが口元を押さえて静かに涙を流すと、カゼは力無くその場に膝をついた。




彼が初めて願った願いを叶えた星は、2度は願いを叶えてはくれなかった。




「お兄さんと向き合えないままだったね。…だから“あの時”言ったじゃない。タイミングを逃すとずるずる引き摺ってしまうって。……後悔したってもう遅いのよ」


「………カンナは酷い。今、言う事か?それを」


「私はキヨと違って優しくなんかないわ。そんな物求めないで」




カンナはそう言うと、床にしゃがみ込むカゼを抱きしめた。


罪を犯し、罰を受けた彼を優しく包み込むように。





「キヨみたいに優しくはない。でもキヨと違って…カゼを愛してあげられる。ずっと言いたかった。ずっと好きだったの…カゼ」



カンナはカゼを抱きしめながら優しく言葉を紡いだ。





「………ごめん、カンナ。俺はその気持ちに答える事は出来ない」




カゼは立ち上がるとそのまま病院から出て行った。
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