祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
キヨがイノリの家へ向かうと、イノリは家の前でしゃがみ込んでいた。




「イノリっ!なんで病院に行かなかったのよ」



キヨがイノリの顔を覗くと、イノリは冷めた眼差しでキヨを睨んだ。




「何?なんでそんなに睨むの?」


「お前は所詮、俺よりもカゼの方が大切なんだな。誰にでもいい顔しやがって。…最低だな」




イノリは立ち上がると家の塀を殴り、煙草をくわえながら家の中に入っていった。



キヨが慌ててイノリを追うと、イノリはキヨの胸倉を掴む。




「やっ…離して!どうしちゃったの…イノリ」

「…お前なんか嫌いだ。ついてくんな!」



イノリはキヨを突き飛ばすと部屋の中に入り、鍵を閉めた。



キヨは口は悪くても、いつも優しい態度のイノリに荒々しく扱われた事が恐くて体が震えている事に気付く。




震える体を抱きしめながらキヨがイノリの家から出ると、ケンから電話が掛かってきた。




「……はい」

「キヨ!?イノリいた?キヨもイノリの家にいるの?」

「うん、今イノリの家から出たとこ」

「じゃあさ、今から車で迎え行くからそこで待っててくれない?」

「わかった…」




キヨは通話を切ると空を見上げた。



あんなに輝いていた星は雲に隠されている。




キヨは明かりが灯るイノリの部屋に視線を移すと、次第に涙が込み上げてきた。
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