祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「………美咲さんは兄貴から逃げたんだ。兄貴が追い出したって言った方があってるかな」


「え、でも離婚してるわけじゃないでしょ?」


「………美咲さんは兄貴が好きだよ。今でもずっと。でも兄貴は始めから好きじゃなかったんだ。…俺に見せ付けたかっただけなんだと思う」




カゼは窓の外を眺めていた。




「………美咲さんは兄貴を好きなだけでいいんだって。何も知らなくても何も出来なくても…ただ好きなだけでいいって。だから言わない」



ケンとキヨはそれ以上何も言えなかった。


カゼ達家族の事に口出す権利などなかったから。





ケンの好きなロックが流れているだけの車内。



この時もうすでに5人の関係が崩れていた事に、誰も気付いてはいなかった。




「そうだ、キヨはどうしたの?イノリと何があったのさ」



キヨはイノリにキスをされそうになった事、イノリに最低だと言われた事、そして突き飛ばされた事を話した。




「なんだよ、それ。あいつ何考えてんだ」




ケンはギリギリと音が立つ程ハンドルを強く握る。





「………キヨ。イノリは俺に妬いてるだけだよ。大丈夫。怒りはすぐ冷めるから」

「よくない!イノリは乱暴だから何するかわからないだろ!!本当許せねぇ…」



怒りが収まらないケンは携帯を取り出し、イノリに電話を掛けた。



長いコールの後、不機嫌そうな声色のイノリが電話に出た。
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