祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「バーカ。それはイノリのだろ?持ってろって。どうせ1人暮らしが辛くて帰ってくるんだろうから」


「………うん、俺らを繋ぐ大切なものだからね。返却不可だ」



ケンとカゼがイノリを見つめるとイノリは優しく微笑んだ。




「わかった。ありがとな」

「お前の為じゃない!キヨの為だからな!!」

「………素直に寂しいって言えばいいのに」

「カゼは黙っててよ!くそ〜イノリっ!!いつでも帰って来いよ!!てか、今すぐ帰ってこい!わかったなっ!?」




ケンはそう言い捨てるとイノリのアパートから出て行った。




「…カゼ。頼みがある」

「………うん、何?」

「キヨにはこの場所を教えないでくれ」

「………いいけど1つ教えて。何故そうまでしてキヨから逃げる。イノリほどキヨを大切にしてた人が」




カゼはイノリを見る。

イノリは情けなく笑うと呟いた。




「手に入れてしまったら…俺は絶対にヤバいくらいキヨを束縛して、きっとどこかに閉じ込めてしまう。そんな自分が自分で恐い。…恐いんだよ」


「………立派な愛情だよ。キヨにぶつければいいのに」


「俺は気持ちを整理したいんだ。ちゃんと自分で自分を理解しない限り、キヨには会えない」


「………うん、大丈夫。キヨには言わないから」




カゼはイノリの肩を叩くと、靴を履き玄関のドアを開いた。
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