祈りのいらない世界で〜幼なじみの5人〜【実話】
「…わかってる。イノリにはちゃんとイノリなりの考えがあったんだって。
…でも一言でいいから言って欲しかった。こんな逃げるようにしていなくならないで欲しかったよ」
「イノリはケジメをつけてキヨを迎えに来るつもりなんだよ」
「ケジメって?…お姉ちゃんのこと?」
キヨの問い掛けにケンは言葉を詰まらす。
「…そっか。やっぱり私はお姉ちゃんの代わりだったんだね…」
キヨは悲しそうに笑うと、靴も履かずに家から出て行った。
もう既に辺りが暗い時間だというのに都心の街は人が多く、明るい。
この街にキヨの居場所はなかった。
「…歩かなきゃ。1人で歩いていかなくちゃ…。もうイノリはいないんだから」
キヨは空を見上げた。
カゼと見た時のように、目に映るのはネオンの光だけ。
「…そんな力、私にあるの?イノリがいない世界と向き合う力なんて私にはない」
キヨは空から目を離すと家へと帰った。
家の中は暗く、誰もいない。
キヨはそのまま風呂に向かい湯船に水を張った。
「…私はずっと…イノリの姿を追う事で存在していた…。だから追うものがない今、私は生きていけないよ」
1つの存在に縋り、寄り掛かってきたキヨはその存在がなくなった今、生きる意味を失った。
物心ついてからイノリだけを愛していたから
イノリを愛していない私を私が知らない。
だから、自分の存在の在り方と保ち方が分からない。
キヨは風呂場に置いてある剃刀を手に取ると手首にあてがい、力を入れた。
痛くなんかなかった。
イノリを失った心の痛みに比べたら、痛くない。
無色の水が赤く染まる。
「…イ…ノリ…」
キヨの声は、勢いよく注がれる水の音にかき消された。
…でも一言でいいから言って欲しかった。こんな逃げるようにしていなくならないで欲しかったよ」
「イノリはケジメをつけてキヨを迎えに来るつもりなんだよ」
「ケジメって?…お姉ちゃんのこと?」
キヨの問い掛けにケンは言葉を詰まらす。
「…そっか。やっぱり私はお姉ちゃんの代わりだったんだね…」
キヨは悲しそうに笑うと、靴も履かずに家から出て行った。
もう既に辺りが暗い時間だというのに都心の街は人が多く、明るい。
この街にキヨの居場所はなかった。
「…歩かなきゃ。1人で歩いていかなくちゃ…。もうイノリはいないんだから」
キヨは空を見上げた。
カゼと見た時のように、目に映るのはネオンの光だけ。
「…そんな力、私にあるの?イノリがいない世界と向き合う力なんて私にはない」
キヨは空から目を離すと家へと帰った。
家の中は暗く、誰もいない。
キヨはそのまま風呂に向かい湯船に水を張った。
「…私はずっと…イノリの姿を追う事で存在していた…。だから追うものがない今、私は生きていけないよ」
1つの存在に縋り、寄り掛かってきたキヨはその存在がなくなった今、生きる意味を失った。
物心ついてからイノリだけを愛していたから
イノリを愛していない私を私が知らない。
だから、自分の存在の在り方と保ち方が分からない。
キヨは風呂場に置いてある剃刀を手に取ると手首にあてがい、力を入れた。
痛くなんかなかった。
イノリを失った心の痛みに比べたら、痛くない。
無色の水が赤く染まる。
「…イ…ノリ…」
キヨの声は、勢いよく注がれる水の音にかき消された。