結婚狂詩曲
結婚狂詩曲
きちんと整備された石畳がのびている。その石畳を行き来するたくさんの荷車や馬車。それらは、賑やかなことで知られるグローリアの都を彩るものである。そんな賑やかな大通りを一台の馬車が走っていた。
その馬車は、そこを走っている他のどれよりも豪華なもの。そのためだろう。それを目にした都の人々はポカンとした表情を浮かべ、どこの馬車だろうと噂しているのだった。
そんな人々の声も聞こえないように、馬車は大通りから閑静な通りへと入っている。そこは貴族たちの屋敷が建ち並ぶ一画。その中でも人目をひく屋敷がある。
馬車の目的地がそこなのは間違いない。御者は迷うことなく、そこに入っていく。だが、馬車に気がついたその屋敷の使用人たちはなんともいえないもの。彼らは半ば呆れたような様子で、馬車を迎えていた。
「セバスチャン様、今日もでしょうか?」
「わかりきったことを言うな。馬車の扉にある紋章でわかるだろう」
白いお仕着せに身を包んだ侍女がおそるおそるたずねてくる。その声に、執事は天を仰ぐような様子でため息をつくしかなかった。
そこに、にこやかな笑顔で馬車からおりてくる男。その姿をみたセバスチャンは、ゲンナリした顔をしていた。しかし、男はそんな彼の様子など関係ない、というように晴れやかな表情を浮かべている。
「今日もいい日になりそうだね。セシリアに会いたいんだけれども」
その声にセバスチャンはどう応えようかと悩んでいた。しかし、相手は声をかけたことで了解をえた、とばかりに屋敷の中に入りかける。それをみたセバスチャンは、すっかり慌てふためいていた。
「お、お待ちください。セシリア様はまだおやすみになっておられます」
「そうなのかい? じゃあ、午後からなら会えるかい? いや、会いたいと伝えておいてくれるかな」
このことは自分の当然の権利、といわんばかりの相手の表情。セバスチャンは、それに反抗できない虚しさを感じていた。
「……セシリア様には、そのようにお伝えしておきます」
セバスチャンのその返事に相手は満足した表情を浮かべている。セバスチャンの悩んだ表情とは違い、彼の表情は晴れやかなものであるといえた。
乗ってきた馬車に戻ると帰るようにと伝えている男。そして、馬車が走り去っていくのを見送ったセバスチャンと侍女は、ため息をつくしかないのだった。
「セバスチャン様、このことをセシリア様にお伝えしておきましょうか」
侍女の問い掛ける声にセバスチャンはちょっと首を傾げている。しかし、彼はすぐに結論を出しているのだった。
「念のためにしておいた方がいいかな。お昼前にあちらに行かれることだし。しかし、本当にあれで……」
セバスチャンの嘆きの声は最後まで紡がれることはない。それをするのは失礼にあたる、という認識が彼の中にあるためだろう。結局、盛大なため息だけを残して、彼は屋敷の中に入っていっていた。
その馬車は、そこを走っている他のどれよりも豪華なもの。そのためだろう。それを目にした都の人々はポカンとした表情を浮かべ、どこの馬車だろうと噂しているのだった。
そんな人々の声も聞こえないように、馬車は大通りから閑静な通りへと入っている。そこは貴族たちの屋敷が建ち並ぶ一画。その中でも人目をひく屋敷がある。
馬車の目的地がそこなのは間違いない。御者は迷うことなく、そこに入っていく。だが、馬車に気がついたその屋敷の使用人たちはなんともいえないもの。彼らは半ば呆れたような様子で、馬車を迎えていた。
「セバスチャン様、今日もでしょうか?」
「わかりきったことを言うな。馬車の扉にある紋章でわかるだろう」
白いお仕着せに身を包んだ侍女がおそるおそるたずねてくる。その声に、執事は天を仰ぐような様子でため息をつくしかなかった。
そこに、にこやかな笑顔で馬車からおりてくる男。その姿をみたセバスチャンは、ゲンナリした顔をしていた。しかし、男はそんな彼の様子など関係ない、というように晴れやかな表情を浮かべている。
「今日もいい日になりそうだね。セシリアに会いたいんだけれども」
その声にセバスチャンはどう応えようかと悩んでいた。しかし、相手は声をかけたことで了解をえた、とばかりに屋敷の中に入りかける。それをみたセバスチャンは、すっかり慌てふためいていた。
「お、お待ちください。セシリア様はまだおやすみになっておられます」
「そうなのかい? じゃあ、午後からなら会えるかい? いや、会いたいと伝えておいてくれるかな」
このことは自分の当然の権利、といわんばかりの相手の表情。セバスチャンは、それに反抗できない虚しさを感じていた。
「……セシリア様には、そのようにお伝えしておきます」
セバスチャンのその返事に相手は満足した表情を浮かべている。セバスチャンの悩んだ表情とは違い、彼の表情は晴れやかなものであるといえた。
乗ってきた馬車に戻ると帰るようにと伝えている男。そして、馬車が走り去っていくのを見送ったセバスチャンと侍女は、ため息をつくしかないのだった。
「セバスチャン様、このことをセシリア様にお伝えしておきましょうか」
侍女の問い掛ける声にセバスチャンはちょっと首を傾げている。しかし、彼はすぐに結論を出しているのだった。
「念のためにしておいた方がいいかな。お昼前にあちらに行かれることだし。しかし、本当にあれで……」
セバスチャンの嘆きの声は最後まで紡がれることはない。それをするのは失礼にあたる、という認識が彼の中にあるためだろう。結局、盛大なため息だけを残して、彼は屋敷の中に入っていっていた。
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