結婚狂詩曲
そこは、屋敷の中のバルコニー。天気のいい時はそこで朝食をとる習慣にしているのだろう。年の頃の似通った二人の女がテーブルについていた。
爽やかな朝の風と光。一日の始まりとしては最高だろうが、一人は不機嫌そうな表情を隠そうとはしていなかった。
その理由は簡単。
彼女たちがいる場所はバルコニーである。となれば、屋敷に出入りする人や馬車もよく見えるというもの。そして、二人のうちの一人は、その馬車の影にすっかりご機嫌ななめとなっていた。
「どうしたっていうの、セシリア。折角の美人が台無しよ」
デザートのフルーツを取り分けながらそう言っている相手。セシリアはその相手を睨みつけながら、挑戦的な態度でいるのだった。
「私は美人ではないです、お義姉様」
心なしか『お義姉様』という言葉に力が入っているような響き。それを耳にした相手はあからさまに嫌そうな顔をしていた。
「お義姉様はないでしょう。私とあなたは昔からの友だちじゃない」
「それでも、あなたはお兄様の奥方だわ。アマーリエなんて気軽に呼べないじゃない」
そう言ってふくれているセシリアをみて、アマーリエは思わず笑い出していた。このところのセシリアが不機嫌な理由はアマーリエにはよくわかっている。
しかし、彼女は夫であるジェフリー、義父であるリチャードから言い含められていることがある。それを遂行するためには、セシリアが不機嫌だろうが何だろうが、関係ない。彼女は、自分のやるべきことをやる、ともいえるのだった。
「どうして、そんなに嫌がるのよ」
「嫌。はっきり言って嫌。この前、アルディス様の口車に乗った自分も嫌」
取り付く島もなくそう言い切るセシリア。そんな彼女の様子に、アマーリエはみせつけるかのようにため息をついていた。
「何か言いたいの」
機嫌が悪いです。という表情を浮かべているセシリア。彼女にすれば、爽やかな朝の気分も一度に吹っ飛んでいたのだ。そのことをわかってくれないアマーリエを睨む視線。それが厳しいものになるのは当然だろう。
「どうして、私じゃないといけませんの。私でなくても、他にも相応しい方がいらっしゃいますでしょう」
「そうかしら。アルフリート様があなたにゾッコンなのは有名よ。他の方がいるはずないじゃない」
アマーリエの声に、セシリアは言い返すことができない。いや、アルフリートが夢中になっている相手は他にいた。
しかし、その相手は公然と口にできる相手ではない。それは、彼の実の妹なのだから。彼が妹のアルディスに夢中になっている。そのことに、周囲は心配していたのだ。
いくらなんでも実の兄妹で結婚などできるはずもない。そして、アルディス自身に好きな相手がいる。それは隣国カルキスの第二王子であるカルロス。彼と相思相愛である彼女は、結婚式をいつ挙げようかという状態なのだ。
しかし、それはアルフリートにとっては、どうしても承知できないこと。その彼が手の平を返したように態度を変えたのだ。その理由は簡単である。今まで、妹アルディスしかみていなかった彼が別の女性に目を向けたのだ。その相手こそがハートヴィル侯爵令嬢セシリア。
彼が妹以外に興味をもったということ。それだけで、相手の地位も身分も問題にならない。もっとも、セシリアが相手であれば、そんな声が聞こえるはずもない。
なぜなら、彼女は侯爵令嬢。そして、アルディスの話相手として宮廷に伺侯もしている。これは、考えられる最高の相手。そうなれば、どこにも問題があるはずがない。周りは諸手をあげて、このカップルが成立するのを待ち焦がれているのだった。
そんな中、その事態をなんとかして回避しようとしている人物がいる。それが当事者であるセシリア本人だった。しかし、これに反発しているのは彼女だけ。そして、セシリアの父も兄もなんとかしてセシリアに承知させようと躍起になっていた。
「アマーリエ、あなたがそう言うのはお父様やお兄様に言われているからでしょう」
セシリアの親族は、彼女とアマーリエが友人だということをよく知っている。だからこそ、アマーリエにセシリアを説得するという大役を任せているのだった。
「それもあるかもね。でも、私もこれはいいことだと思いもの」
「アルフリート様と結婚することが? 私には何のメリットもないわ」
投げやりに呟いているセシリア。そんな彼女をアマーリエは穏やかな表情でみつめていた。
「あなたの気持ちはわかるわ。でも、諦めるって言葉もあるわよ」
アマーリエの慰めるともなんともいえない言葉。それを聞いたセシリアは、ますますため息をつくしかないようだった。
爽やかな朝の風と光。一日の始まりとしては最高だろうが、一人は不機嫌そうな表情を隠そうとはしていなかった。
その理由は簡単。
彼女たちがいる場所はバルコニーである。となれば、屋敷に出入りする人や馬車もよく見えるというもの。そして、二人のうちの一人は、その馬車の影にすっかりご機嫌ななめとなっていた。
「どうしたっていうの、セシリア。折角の美人が台無しよ」
デザートのフルーツを取り分けながらそう言っている相手。セシリアはその相手を睨みつけながら、挑戦的な態度でいるのだった。
「私は美人ではないです、お義姉様」
心なしか『お義姉様』という言葉に力が入っているような響き。それを耳にした相手はあからさまに嫌そうな顔をしていた。
「お義姉様はないでしょう。私とあなたは昔からの友だちじゃない」
「それでも、あなたはお兄様の奥方だわ。アマーリエなんて気軽に呼べないじゃない」
そう言ってふくれているセシリアをみて、アマーリエは思わず笑い出していた。このところのセシリアが不機嫌な理由はアマーリエにはよくわかっている。
しかし、彼女は夫であるジェフリー、義父であるリチャードから言い含められていることがある。それを遂行するためには、セシリアが不機嫌だろうが何だろうが、関係ない。彼女は、自分のやるべきことをやる、ともいえるのだった。
「どうして、そんなに嫌がるのよ」
「嫌。はっきり言って嫌。この前、アルディス様の口車に乗った自分も嫌」
取り付く島もなくそう言い切るセシリア。そんな彼女の様子に、アマーリエはみせつけるかのようにため息をついていた。
「何か言いたいの」
機嫌が悪いです。という表情を浮かべているセシリア。彼女にすれば、爽やかな朝の気分も一度に吹っ飛んでいたのだ。そのことをわかってくれないアマーリエを睨む視線。それが厳しいものになるのは当然だろう。
「どうして、私じゃないといけませんの。私でなくても、他にも相応しい方がいらっしゃいますでしょう」
「そうかしら。アルフリート様があなたにゾッコンなのは有名よ。他の方がいるはずないじゃない」
アマーリエの声に、セシリアは言い返すことができない。いや、アルフリートが夢中になっている相手は他にいた。
しかし、その相手は公然と口にできる相手ではない。それは、彼の実の妹なのだから。彼が妹のアルディスに夢中になっている。そのことに、周囲は心配していたのだ。
いくらなんでも実の兄妹で結婚などできるはずもない。そして、アルディス自身に好きな相手がいる。それは隣国カルキスの第二王子であるカルロス。彼と相思相愛である彼女は、結婚式をいつ挙げようかという状態なのだ。
しかし、それはアルフリートにとっては、どうしても承知できないこと。その彼が手の平を返したように態度を変えたのだ。その理由は簡単である。今まで、妹アルディスしかみていなかった彼が別の女性に目を向けたのだ。その相手こそがハートヴィル侯爵令嬢セシリア。
彼が妹以外に興味をもったということ。それだけで、相手の地位も身分も問題にならない。もっとも、セシリアが相手であれば、そんな声が聞こえるはずもない。
なぜなら、彼女は侯爵令嬢。そして、アルディスの話相手として宮廷に伺侯もしている。これは、考えられる最高の相手。そうなれば、どこにも問題があるはずがない。周りは諸手をあげて、このカップルが成立するのを待ち焦がれているのだった。
そんな中、その事態をなんとかして回避しようとしている人物がいる。それが当事者であるセシリア本人だった。しかし、これに反発しているのは彼女だけ。そして、セシリアの父も兄もなんとかしてセシリアに承知させようと躍起になっていた。
「アマーリエ、あなたがそう言うのはお父様やお兄様に言われているからでしょう」
セシリアの親族は、彼女とアマーリエが友人だということをよく知っている。だからこそ、アマーリエにセシリアを説得するという大役を任せているのだった。
「それもあるかもね。でも、私もこれはいいことだと思いもの」
「アルフリート様と結婚することが? 私には何のメリットもないわ」
投げやりに呟いているセシリア。そんな彼女をアマーリエは穏やかな表情でみつめていた。
「あなたの気持ちはわかるわ。でも、諦めるって言葉もあるわよ」
アマーリエの慰めるともなんともいえない言葉。それを聞いたセシリアは、ますますため息をつくしかないようだった。