LittlE bY LittlE
目覚ましは掛けない主義だ。
そんなもの無くても朝日の眩しさで目を覚ます。
起きて最初に鼻を擽るのは珈琲の香り。
どちらかと言えば低血圧で朝は苦手なのだけど、この香りに誘われてまんまとベッドから抜け出してしまう。
寝室から出てキッチンを覗けば、俺よりも少し背丈の低い背中が見えた。
「……おはよー、瑞季。」
声を掛ければその背中が振り向く。
「はよ、珈琲飲む?」
「飲むー…」
「ブラックな。出すから座っとけよ。」
「……はーい。」
言われた通りソファーへ腰を落とす。
遅れてマグカップを持った瑞季が隣へ腰をおろした。
「ほい。」
「どーも。」
少し薄めに淹れられた珈琲は間違いなく俺好みだ。
「美味しいよ。」
「そりゃ良かった。」
と流し目の瑞季。
「どうかした?」
「………あのさ、前から訊きたかったんだけどさ」
「うん?」
「翔、目覚まし掛けないくせに何で毎朝同じ時間に起きてこれんの?寝る時間はバラバラのくせしてさ。ぜってーおかしいって。」
なんて失礼な言葉が投げられる。
「うーん…そんなこと言われてもなぁ。勝手に目が覚めてしまうし。」
夜が来れば眠りに落ち、朝が来れば目を覚ます。
それは、この世の摂理だ。