スイートホーム
さらに物申そうとしたお母さんを強引に遮り、お父さんは続けた。


「せっかく頑張って来た仕事を辞めるのは確かに残念な事だとは思うが…。でも、もう決心したんだよな?」


「うん」


「だったら仕方ない。今さら辞表の撤回もできないだろうし。なぁに、彩希は資格持ちなんだから、転職先はすぐに見つかるさ」


「見つけてもらわなくちゃ困るでしょっ」


お母さんがここぞとばかりに言葉を挟んだ。


「その資格を取らせる為に大学まで出してやったんですからね。早く次の勤務先を見つけなさいよ。良い年した娘が平日昼間にブラブラしてるところをご近所さんに見られたりしたら、私達が恥をかくんだから」


お母さんはそう言い捨てると、私からプイッと視線を逸らし、食卓の上の空になったお椀や食器を重ね始めた。


「しっかし、まさかあの柳田さんが浮気するなんてなー」


志希が麦茶で喉を湿らせつつ言葉を発した。


「いかにも『真面目な好青年』って感じだったのにさぁ。人は見かけによらないよな」


「そう見える人ほど、案外裏では好き勝手やってたりするのよ」


お母さんの言い草に、お父さんはちょっと眉をひそめたけれど、かといって特別何も言わなかった。


自分の娘が酷い仕打ちを受けたのは事実で、表現はどうあれ、お母さんの意見に同意する部分もあったのだろう。
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