スイートホーム
「だけど結局その場しのぎで、お袋はこれっぽっちも変わらなかったじゃんか。それでも姉ちゃんは親父に対して、別にわだかまりは持ってないんだ?」


「うん…」


「あっそ。でも、俺はムリだから」


志希はきっぱりと宣言した。


「親父に対しても俺は心を許してない。むしろ、はっきり分かりやすく、一点の曇りもなくすがすがしいほど自己中心的なお袋よりも、親父の方が断然苦手かも」


「え…」


「だって、さっきも言ったけどさ、一見親父にはこれといった欠点が見当たらねーんだもん」


志希は眉をしかめ、どこかもどかしそうな口調で続けた。


「さぞかし周りからは理想の父親だと思われてるんだろうよ。そんな相手に反抗的な態度を取ったりしたら、まるで俺の方が悪者みたいに扱われちまうじゃん。そんなの悔しいから、俺はもう親父には何の期待もしないし、余計なアクションは起こさない。時期が来たら静かに速やかに、あの家を出る事にするよ」


どう返答して良いものか迷っている間に、志希は話を進めて行く。


「優しさ故に、無自覚に人を傷付ける場合もあるんだなって、親父を見てつくづく学習したよ」


そこで志希はちょっと斜に構え、嫌な笑いを浮かべた。


「ああ。そういうとこ、姉ちゃんが似ちまったんだろうな。だから親父のこと、責める気にはなれないんだろ?」


「…意地悪なこと、言わないでよ…」
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