スイートホーム
思いっきりへこみながらの私の返しに、志希はハッとした表情になった。


「……悪い。今ここで、俺達が姉弟喧嘩してる場合じゃねーよな」


言いながら、再びガリガリと頭をかく。


志希がすんなり折れてくれた事に、私は内心安堵のため息を漏らした。


危なかった…。


つい、売り言葉に買い言葉で「そういうあんたはお母さんにそっくりじゃない」なんて、残酷なことを口走る所だった。


そんな暴言をぶつけたりしたら、せっかく心が通いあった志希との関係に、決定的な亀裂が入ってしまっただろう。


取り返しのつかない事態になる前に、何とか踏みとどまる事ができて、本当に良かった。


「とにかく、これが親父に対しての、俺の嘘偽りない気持ちだから」


「…そっか」


私は静かに頷いた。


そういう感情が湧き起こって来てしまうのならば、それはもう仕方のない事だ。


無理矢理それを打ち消させる事なんてできない。


私も無理だから。


母親への複雑な思いを強引に抑え込み、こちらから歩み寄って交流を続けて行くなんて、絶対にできない芸当だから。


「あ、そうだ。一応フォローしておこうかな」


すると志希はそれまでよりも若干軽めな口調になり、話を続けた。


「お袋も最初っからあんなんじゃなかったみたいだぜ。あの人はあの人なりに、良い母親になろうと努力していた時期もあったみたいだから」


「え?」
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