スイートホーム
「ふ~ん…」


「でも、今回あっちから連絡もらって、姉ちゃんのことで相談に乗って、今までとは比べものにならないくらい深く密に接しているうちに、何だかその気になって来ちまってさ」


「…梨華の魔力に引き寄せられちゃったんだね」


過去、何人もの男性を魅了して来たのであろうその天然の媚薬に。


「今から思えばそうなんだろうな」


苦笑しながら志希は続けた。


「俺とした事がなんてザマだ。自分の意志薄弱っぷりに、心底虫酸が走るぜ。数時間前の能天気な自分を思いっきり殴り飛ばしてやりたい」


「なんか……。ゴメンね?」


予想はしていたけど、志希はやっぱり梨華に対してほのかな恋心を抱いていた。


今回の事がなければ、その感情はただの青春の甘酸っぱい思い出で終わっていたハズ。


だけど至らない姉のせいで、不愉快で最低な失恋を経験する羽目になってしまった。


「いや、それはもうどうでも良くて…」


私をフォローしてくれる気でいたのであろう志希は、何故か途中で言葉を切った。


「…じゃあ、そう思うんだったらさ、」


そして、小さい時分から何度も目にして来た、イタズラっ子のようでとても小憎らしい、だけど実はいとおしさも感じていた笑顔で、意気揚々と交換条件を提示して来たのだ。


「その唐揚げ一個くんない?さっきからすげ~良い匂いが漂って来てて、チョー気になってたんだよな」
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