スイートホーム
彼なりにケジメをつけたかったのだろうか。


「まさ…柳田さんと、何か言葉を交わしたりはしたんですか?」


『いやそれが、『交わす』なんてもんじゃないのよ。昼休みになるやいなや、あの人、社食に飛び込んで来てさ』


「え…」


『『不躾な態度を取り、皆さんに不愉快な思いをさせてしまって、大変申し訳ない事をいたしました!』って、頭を下げたのよね』


「えぇっ?」


優さんは基本的に好青年だけれど、大手企業に勤めるが故のエリート志向、そしてそれに比例したプライドの高さがふとした時に見え隠れしていた。


そんな彼が敵対している(と勝手に思い込んでいた)相手に潔く頭を下げるなんて…。


「そ、それで、どうなったんですか?」


今までの彼からは考えられないような言動ばかり耳にして、大いに戸惑いながらも話の先を促した。


『一瞬、その場にいた社食のメンバーは全員フリーズしちゃったんだけどさ、田中さんがすかさず自分を取り戻して明るくツッコミを入れたのよ』


「どんな風に?」


『『ホントよねー!急によそよそしくなるから、びっくりしちゃったじゃないの!』ってね。そんですぐに『でも、私の方も意固地になっちゃってたから、人のことは言えないわね。今回の事はお互い様って事で、もう仲直りしちゃいましょうよ』って話を繋げてさ。途端に和やかムードに変わったワケよ』


「さすが、田中さんですね…」
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