スイートホーム
そういう意図で発した質問ではなかったんだけどな…。


別に、学会の質疑応答レベルの回答を期待していた訳ではない。


恋する乙女の浮かれた戯言というか、相手にも、同じく軽いノリで、フィーリングで答えて欲しい類いのものというか…。


しかし小太刀さんにそんなバカップルの彼氏役を演じてもらうのは、やはり無理があったようだ。


「強いて言うなら」


すると小太刀さんは自分の胴体に巻き付いていた私の腕をやんわりと解き、体の向きを変えると、しっかりと視線を合わせ、言葉を繋いだ。


「初めて会った日」


「え?」


「迷子の少女以上に、安心しきった表情で、俺を見上げて来たあの瞬間からかもしれない」


その解答に、小太刀さんと初めて遭遇した時のあの場面が、瞬時に鮮やかに脳内スクリーンに甦った。


ああ。

つくづく、なんて私はおバカさんなんだろう。


何が軽いノリだ。
フィーリングだ。


しっかりと地に足が着いた状態で、じっくりと考察された上で紡がれた言葉の方が、何倍も何百倍も何万倍も、嬉しいに決まってるじゃないか。


あまりの感動に胸が震え、目の奥がジーンと熱くなった。


その熱が、涙腺を通って放出されようとしているのを感じる。


さすがにその顔を見られるのは気恥ずかしくて、慌てて俯こうとした、その時。


……相変わらず、小太刀さんの動きは俊敏だった。
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