スイートホーム
「うわー。やった!」

「バ、バカ!シッ!」


そして何故か食堂の出入口付近から響いて来る、聞き慣れた男性二人の声。


……そういう事だったんですね、加賀屋さん。


古より、少女マンガには必ず登場する、お節介で世話焼きな主人公の親友のような、ベタな行動を取ってくれていた訳ですね。


不器用な二人の為に、こういう場をセッティングして下さった訳ですね。


だけど物語の世界では成功率百パーセントでも、現実世界ではやり過ぎ感が否めない、紙一重の作戦ですよ、これって。


場合によってはトラブルを巻き起こしかねない、危険な手法だと思いますよ、正直。


でも……。


今回ばかりは素直に、感謝させていただこうと思います。


こんな機会でもなければ私達は未来永劫、交わる事なく、すれ違ったままだったかもしれないから。


とんでもなく恐ろしい。


……なんて事を、目まぐるしく考えていたけれど。


すぐにそんな余裕はなくなった。


とにかく今は、こちらに集中する事にしよう。


というか、このシチュエーションを思う存分堪能しなければ、この奇跡に酔いしれなければ、あまりにももったいなさすぎるもの。


だから私はそれまで宙ぶらりんにしていた両手を小太刀さんの広い背中におずおずと回し


ギュッと強く抱きつくと、改めて、クールな彼の情熱的な口付けを、しっかりきっちり、受け止めたのだった。
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