スイートホーム
「…んもー。ホント彩希ってば、あらゆる面で押しが弱いんだから…」


麻美はため息をつきつつそう呟いたけれど、それ以上は言及して来なかった。


本人にその気がないのに、無理強いはできないと思ったのだろう。


そしてふと、今さらながらに気づいたように、だいぶ前に運ばれて来ていた自分の目の前にあるコーヒーカップを手に取ると、ブラックのまま静かに口に含んだ。


麻美に指摘されるまでもなく、つくづく自分は惰弱で甘ちゃんだったと痛感している。


なぜ、梨華と優さんを引き会わせてしまったのか…。


いや、会社帰りにデートしている最中、偶然、出くわしてしまったのだから、そこまでは仕方がなかったと思う。


だけどその後の『せっかくだから、3人でちょっとお茶でもしない?』という梨華の誘いには、断固として乗るべきではなかった。


初対面の二人が打ち解けられるように、必死になって話題を提供したりなんかするんじゃなかった。


二人が連絡先を交換する機会を、与えるべきじゃなかったんだ。


梨華にはいくつもの前科があったというのに。


梨華はまず高校時代に二人、彼女がいる子から彼氏を奪い取っていた。


一度ならず二度、しかも『学校』という狭いコミュニティの中でそんな修羅場を経験する人なんて、世の中そうはいないだろう。
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