スイートホーム
志希に何か言いたそうだったけど、今はその時ではないと判断したのか、お父さんはそう言葉を続けた。


私のプレゼンとお父さんの太鼓判が後押しになり、お母さんは最終的には渋々了承した。


この時代にスムーズに転職先が決まるというのはとんでもなくラッキーな事だし、下手に反対してずっと無職でいられるよりはマシだと判断したのかもしれない。


「姉ちゃんて、何だかんだで就職に関してはすげー恵まれてるんだよなー」


志希は何故かちょっと面白くなさそうな口調で言葉を発した。


「自分が狙いを定めた所に、いつもすんなり入れてるしさ」


「何を言ってるんだ。それだけ彩希が努力をして来たからじゃないか」


間髪入れずお父さんがたしなめる。


「その労力に見合った、当然の結果だ。やはり資格があるというのは最大の強みだよな」


「その資格が取れたのは一体誰のおかげかしら?」


するとお母さんがツンケンとした態度で割り込んだ。


「自分一人の力じゃないのよ。そこの所、勘違いしないようにね」


「…うん。そうだよね」


いついかなる時も、感心するくらい態度がブレないんだよね、お母さんて。


絶対に何か一言言わないと気が済まない。


でも、良いんだ。


こんなストレスのかかる家族団欒の時を過ごすのも、あと僅かだから。


ひとまず新しい人生のスタートラインには立てたので、ホッと一安心。
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