スイートホーム
……何なの?一体。


思わぬ出来事に興奮した神経が、体全体を小刻みに震わせる。


うまくコントロールできない指先で何とかケータイをテーブルに置いた。


再びベッドの側面に寄りかかり、目を閉じて、先ほどの梨華とのやり取りを反芻する。


普通、拒否されていると分かった時点で、連絡を取るのを断念するものじゃないの?


わざわざ家族からケータイを借りてかけて来るだなんて。


どうしても、もう一度きちんと謝罪しないと気が済まない、と思ったのかもしれないけれど。


心底申し訳ない、というような殊勝な声音ではあったのだけれど。


……何故か電話越しに梨華の声を捉える毎に、嫌悪感がどんどん増して行った。


まさか彼女に対してここまでの拒絶反応が出るなんて、自分自身びっくりだ。


そこまで深く彼女を恨んでいたなんて。


……何だか、自分がどんどん嫌な女になって行きそうで、正直怖い。


「ちょっと彩希ー!」


するとその時階下から、苛立ったようなお母さんの声が響いて来た。


「何やってるの?早くお風呂入っちゃってよ!」


普段はその声にげんなりする所だけど、今日に限っては、危うい地点をさ迷っていた意識を日常に戻された気がして、むしろホッとした。


「今行くよー!」


私はそう答えると、予めベッドの上に乗せておいた着替えを手に、今度こそ部屋を出た。
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