スイートホーム
自分が傷付いているからって、勝手に他人の心中を妄想して貶めるような事はするべきじゃない。


この胸の中に渦巻くドロドロとした思いは、自分一人で責任を持って引き受け、処理しなければならないものだ。


「今日は本当にありがとう」


当然のことながら飲食代は私が払い、喫茶店を出た所で、改めて麻美に礼を述べた。


「色々吐き出せたおかげで大分楽になったよ」


あのまま自宅に帰っていたら、ずっと落ち込んだ気持ちを引きずっていただろう。


「そう?役に立てたなら良かった」


穏やかに微笑みながらそう言ったあと、麻美はふいに表情を引き締め、問い掛けて来た。


「皆には、どうする?」


「え?」


「彩希が結婚間近っていうのは仲間内にはバレバレだった訳だし、きっと悪気なく何気なく、柳田さんとの仲を聞いて来ると思うんだよね」


「あ、うん…」


「もし彩希が言いづらいようだったら、私からそれとなく皆に伝えておこうか?」


情けないことに、とっさには言葉が出て来なかった。


「…ううん」


しばし考え込んでから返答する。


「そこまで麻美に頼る訳にはいかないよ。折りを見て、私からちゃんと話をするから、麻美はまだ知らないふりしててくれる?」


「…そっか」


心得た、という風に力強く頷くと、麻美はそのまま歩き出した。


必然的に私もそれに倣い、彼女の隣に並んで歩を進める。
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