小悪魔女×芸能人
悪女のすすめ

どきりとした。
心臓が高鳴る。

あたしが見たのは、コートを着た女に殴られる、サングラスの男。

女は顔を覆って走り去ってしまう。

男は項垂れたまま、動かなかった。

あたしはそれを尻目に、彼の横を通り過ぎた。


夜。

彼は、あたしのマンションの真正面のマンションに住んでいる人。
見たくなくても勝手に見えてしまうくらい、無防備な彼。
カーテンをつけたのは、つい最近。
都会から外れたここでは警戒するものは何もないと思っているのだろう。


そうして時間が経ったとき、ふと見ていたテレビで彼が映った。

その時の、驚きようと言ったら。
まさか、彼が芸能人だったなんて。

最近こそ人気俳優と謳われている彼だけど、前まではカーテンすらつけない男だったわ。


ねぇ、あなたはあたしのこと、なんにも知らないんでしょう?
なら、好都合よね。

あたしは部屋の鍵を開けた。


明日の夜は、雨が降るらしい。



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