小悪魔女×芸能人
朝。
彼は、部屋には居なかった。
代わりに、ガラステーブルの上には小さなメモ書きが置いてあった。
“僕は仕事に行きます。冷蔵庫にあるやつ食べていいよ”
筆跡が柔らかい。
いかにも、彼の字と言う感じがした。
あたしはテレビをつける。
きっともうすぐ、彼が出ている番組が放送される。
時間まで待つと、テレビに映る、彼。
あたしは彼のメモ書きを裏返して、置きっぱなしだったボールペンで、丁寧に字を書いた。
「勝手にテレビつけてしまってごめんなさい。翔太さんが芸能人の方なんて知らずに、家に泊まったりしてしまいごめんなさい」
熱愛報道されるのを心配して、身を引く女の出来上がり。
これが凶と出るか、吉と出るかは昨日のあたしの実力に縋るしかない。
あたしは部屋を出る。
ここのマンションの管理人らしき部屋に行き、兄が鍵を閉め忘れてしまったから閉めておいてくれ、などと適当に並べて、あたしはマンションをあとにした。