小悪魔女×芸能人
ぼーっとしながら、彼のマンションの目の前のマンションに、あたしは帰った。
自分でも、上手く行きすぎてびっくりしている。
その反面、悲しかった。
長い間正面に居たわけなのに(マンション越しではあるけど)、まったくあたしに気付かなかった。
ほんとは、どこかであたしを見たことある、とか気付いてほしかったのに。
仕方無い。
彼はあたしのことを完全に“知らなかった”から、いまのあたしは出来ているんだ。
自分の部屋に入って、長年愛用しているソファに座り込む。
落ち着いた。
昨日の無茶が祟ったのか、体の節々が痛く、熱っぽい。
これは風邪を引いてしまったな。
温室育ちのあたしが、真冬に雨に打たれているなんて、馬鹿らしい。
普通に考えて、ありえない。
だけど、こうでもしないと彼の気は引けないんだ。
体温計で測ってみると、38度を超えていた。
ここまでくると、呆れもしない。
あたしはベッドに身を投げた。
さくせんは、それからよ。