恋する美容師
その時はちょうど、今までカットをしていたお客様を玄関まで見送ったところだった。
「ありがとうございました!
またよろしくお願いします。」
よく俺を指名してくださる中田さんの背中に深く頭を下げて、決まり文句を言う。
もちろん、本心でちゃんと思ってる言葉だ。
俺は頭を上げてふっと一息つく。
現在の時刻は16時をちょっと過ぎた頃。
俺は中田さんを最後に予約のお客様を終えた。
ということは、事実上仕事は終わった。
だからと言って帰れる訳にも行かない。
仕事は山ほどある。
店内掃除をして、アシスタントに入って、シャンプーをして。
でもその前に休憩がてら、意味もなく今日の売り上げ表を見る。
今日の売り上げは、平日にしても少ないな。
最近売り上げが右肩下がりだな……。
そんな事を考えてる最中、
突然大きな電話の呼び出し音が鳴り、
まるで自分が悪いことをして見つかった時の様にびっくりして肩が上がった。
ーーープルルルル!!
「……びっくりしたぁ、」
なんて胸を下ろしている暇はない。
俺は慌てて受話器を取った。