憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 半ギレたセンパイの声だって、なかなかデカイっつーの。

 木崎センパイがこっちに向かって歩いてきてくれた為、木崎センパイに追いつく事に成功。

 「何で待っててくれないんですか!??」

 『はぁはぁ』全力で走ったせいで、息が上がる。

 「待つわけないじゃん。 寒いし。 早川さんもオレも、テスト前に風邪ひいたらどうするんだよ」

 木崎センパイが、細い目をしながらワタシを見下ろした。

 「だから!! 寒いだろうから、風邪ひいたら困るから、カイロあげようと思ったんじゃないですか!!」

 木崎センパイの胸にカイロを押し付ける。

 「だったらそう言えよ、バカ。 早川さん、なかなか家に入ろうとしないから、家入ったのをいいことに『コレ幸い』って帰っちゃっただろうが」

 木崎センパイは、『もう少し一緒にいたい』と思うワタシの気持ちが、うっとしかったらしい。

 『コレ幸い』て・・・。

 「バカだからしょうがないじゃないですか」

 「ホントばか。 折角家まで送ったのに、また送らなきゃじゃん」

 木崎センパイは、袋から出したカイロを左手に持つと、その手でワタシの右手を握った。

 手と手の間にカイロが挟まってしまっているけど、木崎センパイがワタシと手を繋いでくれた。

 「どうせ自分の分のカイロ持って来なかったんだろ。 バカだから」

 木崎センパイがワタシの手を引っ張りながら歩く。

 「バカだからじゃないですよ。 敢てですよ。 まさか木崎センパイが待っててくれないなんて思ってなかったですもん」

 「まともに言い返したー。 バカのくせに」

 木崎センパイが『フッ』と笑った。

 お。 初めて木崎センパイに言い勝ったかも、ワタシ。

 「今日は『触らないで』って言わないんだ??」

 何気に木崎センパイは昨日のワタシの言葉を根に持っているらしい。

 言うわけないじゃん。 好きなんだから。
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