憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 「他に術があるとは考えられませんでしたから。 ワタシは多くの従業員の生活を背負った雇い主です。 ワタシの悪評で経営が傾けば、従業員まで犠牲になります。 出来る事なら穏便な対応をお願いしたい」

 木崎センパイのお父さんの勝手な言い分に、お父さんが『フッ』と溜息なのか笑い声なのか分からない息を吐いた。
 
 ただ、お父さんが呆れている事は確かだ。

 何が『従業員を犠牲にしたくない』だよ。 だったら最初から不倫なんかしなきゃ良かったではないか。

 「・・・もうアナタの耳にも入っているかと思いますが、ウチは離婚をしました。 そちらはどうされるおつもりですか??」

 お父さんは、小切手を付き返すわけでもなく、貰う素振りも見せなかった。 

 小切手は、テーブルに置かれたまま。

 罵倒する事さえもしないお父さんは、冷静に質問をしていた。
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