憎悪と、懺悔と、恋慕。
「・・・羨ましかった。 キミの家族が。 キミのお母さんと話をするのが楽しくて、どんどん惹かれていった。 ・・・ワタシの家内の足の事は、湊から聞いてる??」
「はい」
木崎センパイのお父さんの話の続きを聞きたくて、短い返事を返した。
「・・・湊、家内の足の事を気に病んで、いつでも母親優先なんだ。 友達とも遊ばない。 バイトも部活もしない。 学校が終われば、用事がない限り真っ直ぐ家に帰る。 ・・・しんどかった。 そんな息子を見るのも、車椅子の妻を見るのも」
木崎センパイのお父さんの眉間に、深い皺が入った。
木崎センパイのお父さんの気持ちは分かる。
ワタシも、木崎センパイの家に行く度に苦しい気持ちになっていたから。
母親の足を気に病む木崎センパイ。 『違う』と言っても聞き入れて貰えない木崎センパイのお母さん。
見ていて辛かった。
木崎センパイのお父さんは、どうする事も出来ずに14年間、あの切ない光景を見ていたんだ。
それでもやっぱり不倫はダメだ。