憎悪と、懺悔と、恋慕。
 

 ワタシはいいよ。 

 ワタシは運が良かった。 

 幼い頃に風で帽子を飛ばされる事がなかったから、お母さんが足を怪我する事もなかった。

 でも、木崎センパイと木崎センパイのお母さんは運が悪かった。

 そんな木崎センパイたちを傷つけちゃダメだ。

 どんな理由があっても、やっぱりダメだ。

 ワタシは運が良かった。

 親の離婚もある程度大きくなってからだったから。

 でも、莉玖は違う。 まだ小学生だ。

 幼い莉玖に淋しい思いをさせたくなかった。

 毎日仕事で疲れて帰ってくるお父さんから、お母さんを奪わないで欲しかった。

 でも、普段頭が悪いくせに、こういう時に限って木崎センパイのお父さんの気持ちが理解出来てしまったワタシは、責める事さえ出来ない。

 むしろ、木崎センパイのお父さんが教えてくれたお母さんの気持ちに、ちょっと喜んでしまっていた。

 やっぱりワタシは馬鹿なんだ。
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