憎悪と、懺悔と、恋慕。
 
 「じゃあ、パパっと餃子焼いて、すぐに晩ゴハンにするね」

 早川さんが腕まくりをしながらキッチンに向かった。

 過る一抹の不安。

 じわじわ漂う、焦げた匂い。

 『早川さん、火事起こしてない?!』とキッチンの方に目を向けるオレの傍で、『あぁー。 今日も失敗かぁ』と早川さんのお父さんと莉玖くんが肩を落としていた。

 「早川さん、手伝うよ!!」

 早川さんが餃子を全部焼ききる前に助太刀に行く。

 キッチンには、早川さんが躊躇無く焦がした餃子が並ぶ無残なお皿が置いてあった。

 「焼きたいなー。 オレ、餃子焼くの好きなんだよなー」

 料理下手なくせにやる気だけは人一倍ある早川さんを傷つけない様に、やんわり焼き係の交代を提案すると、

 「そうなんですか?? じゃあ、お願いしていいですか??」

 優しい早川さんは、あっさりフライパンを手放した。 早川さんは基本、自分よりも相手の主張を汲んでくれる子だ。

 「やったね。 ありがとう」

 必要以上に若干白々しく喜びながら、コンロの前に立ち、残りの餃子を次々焼いていく。

 そんなオレを、

 「木崎さんさぁ、本当に姉ちゃんで良いの?? 何が良いの?? まじで分かんないんだけど」

 キッチンを覗き込みながら再確認をしてくる莉玖くん。 

 「なんかごめんね」

 莉玖くんの隣に来た早川さんのお父さんもは、何故か謝ってくるし。

 「本当に良いんです。 オレ、今めっさ楽しいですから」

 本心を素直に言うと、莉玖くんと早川さんのお父さんが目を合わせて微笑んだ。

 こんな素敵なお父さんと弟を持つ早川さんを、心の底から羨ましく思う。

 オレも、この人たちに好かれたいなと思った。
< 230 / 280 >

この作品をシェア

pagetop