新緑の癒し手
第四章 血のざわめき
結局ダレスは何も告げないまま、フィーナの前から姿を消してしまう。その代わりに彼女の目の前に姿を現したのは、ダレスの親友のヘルバ。突然の有翼人の登場にフィーナは動揺を隠せないでいたが、それ以上に彼女から話を聞き出したヘルバ方が唖然となってしまう。
「あ、あいつ……」
ヘルバがダレスへ向けて呟いた言葉は、辛辣そのもの。己の正体と体質に付いてフィーナに話していたが、肝心な部分は全く話していなかった。そのことにヘルバは頭痛と同時に眩暈を覚えるが、ダレスの性格に付いて愚痴っている場合ではなく、また話さない理由もわからなくもない。
だからといって何も話さないわけにもいかず、いずれ明らかにしないといけない。だから親友が隠している部分を代わりに話し、フィーナにダレスのことを本当の意味で知ってもらわないといけない。ヘルバは長い溜息を付いた後、彼女に何故ダレスが姿を消したのか話していく。
ヘルバの説明の仕方は要点だけを中心に話す簡略的なものであったが、フィーナはダレスが何も言わず自分の前から姿を消したのかを理解したのか、項垂れ切ない表情を浮かべた。
「大丈夫でしょうか」
「あいつは丈夫だ」
「いえ、お食事の方が心配で。今、何をしているのかわかりませんが、きちんと食べているのか……」
「まあ、何とか一人でやっているだろう。この体質に関しては、毎年起こるものだからあいつも心得ている。それに、今まで一人で生活してきた。家事全般に関しては、あいつは得意だ」
「今、何処に?」
「会いたい?」
「はい」
「そう言うと思った」
フィーナの言葉にヘルバは、ダレスが彼女を気に掛けている別の理由に気付く。以前、セインの並外れた欲望が向けられることを恐れるあまり、彼女を過剰に気に掛けていると思っていた。また、彼女に無理をさせてまでの採血の結果、命を落すのではないかと心配した。
だが、それには違う理由が隠されており、ダレスは此方を強く意識しているのではないかとヘルバは予想を立てる。現にフィーナは、ダレスの正体を聞いても動揺せず受け入れた。それどころか彼が今何処で何をしているのか、また無事なのかどうかヘルバに尋ねている。