新緑の癒し手

「行った」

 ヘルバの言葉に、フィーナは安堵の表情を作る。神官に嫌悪感を抱いているが、それ以上にセインに恐怖心を抱いているフィーナ。だから彼を未然に撃退してくれたヘルバに感謝するが、彼女の礼にヘルバは頭を振ると「自分は、ダレスとの約束を守っただけ」と、返す。

 それにヘルバ自身も女神に仕える見習い神官ながら性欲に忠実に生き、娼婦相手に宜しくやっているセインの堕落しきった性格が気にいらなかったので、手痛い一撃を仕掛けられたことが心地よかった。また、日頃のダレスへの酷い仕打ちに対しての復讐も篭めている。

「ヘルバさんって、面白いです」

「そうかな? 俺にしてみれば、貴女の方が面白いと思う。巫女ってもっと堅苦しいと想像していたが、会ってみたら違っていた。まあ、俺としてはこの方が話しやすくていいんだけど」

「以前、ダレスが言っていました。貴方が私に会いたいと……で、ヘルバさんってどんな方なのか想像しました」

「想像通り?」

「はい。良い方です」

 友人の頼みを受け、このように身の安全を保障してくれる人物。その方を良い方と言わずして、誰を良い方と言うのか――と、真剣な表情で熱弁するフィーナ。彼女の直向な一面にヘルバは苦笑すると、どのようなことがあっても友人との約束を守らなければいけないと思うのだった。


◇◆◇◆◇◆


「馬鹿者」

「す、すみません」

「何度、同じことを言わせる」

「り、理解しています」

 復活を果したセインに向かい、複数のトゲが見え隠れする言葉を放ったのは彼の父親ナーバル。修行に姿を見せない息子を捜していたナーバルであったが、息子の発見時の彼の表情は悪魔の形相だったと多くの仲間が説明する。結果、復活を果した息子に対し容赦ない言葉を繰り返す。

 クドクドと長く続けられる説教は年齢の影響と思いたいが、全ての原因は自分にあると自覚しているのかセインは父親の説教の終了を珍しく女神に祈るが、日頃の行いが行ないなので女神が聞き入れるわけがない。それどころか、女神はセインに精神修行の場を与える。
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