新緑の癒し手
「それにしても、どうして有翼人が?」
「あの者の知り合いか何かだろう。この神聖な神殿の中に、あのような汚れた者を入れるとは……」
「暴力的です」
「それは、お前の反応が鈍いだけだ」
「父上! 一応、身体は鍛えています」
「鍛えている? それは、下半身だけのことだろう。鍛えるというのなら、全身を鍛えるんだ」
有翼人相手に息子が打ちのめされたことが余程癪に障ったのか、父親からは普段の冷静な一面は感じられない。一方自分の自己弁護が逆効果に働いてしまったことに焦ったセインは、自分があの有翼人を何とかしたら許してもらえるのか尋ねるが、ナーバルの返事は辛辣だった。
セインが有翼人を何とかする以前に、何とかするだけの技能を持っているかどうか。身体を鍛え戦いの技術を有しているのなら、あのように一撃を食らった程度で伸びたりはしない。
それに再び有翼人と戦っても、無様な姿を晒すだけ。いい加減に自分の実力を理解して欲しいものだが、欲望とそれに付随する技術の会得に情熱を傾けてしまったのか、実力を推し量る能力は乏しい。これで戦いを挑もうとしているのだから、馬鹿としか言いようがない。
「有翼人の味方ですか?」
「何故、そのような解釈になる」
「話の内容からして、父上は有翼人の味方だと思ってしまいます。ですので……誤解しました」
「当たり前だ。どうして、汚れた者の味方をしないといけない。だからといって、お前の軟弱さは褒められたものではない。よりによって一撃で伸ばされるとは……この一族の恥さらしが!」
「ち、父上」
「事実ではないか」
いい年齢なのに、どうしてこれほどまで情けないのか。立派な成長を願って教育を施してきたが、それに反して息子は欲望中心に物事を考える聖職者としては有り得ない人物になってしまった。これで将来一族の名前を背負わないといけないのだから、悩みは尽きない。
息子を使い莫大な権力を我が物にしようとしていたナーバルだが、数々の醜態を晒す息子に愛想を尽かしてきたのか、計画の変更を余儀なくされる。また周囲の者の話ではフィーナはセインに激しいまでの嫌悪感を抱いているので、この状況で両者をくっ付けるには難しい。