新緑の癒し手
なら――
別の人物を捜さないと。
できるのなら、自分の意見に反論せず都合よく動いてくれる人物の方がいい。セインのように馬鹿丸出しの脳無しの者の方がフィーナにいい印象を与えるが、そう簡単に適任の人物が見付かるわけがない。また、肝心のフィーナの理想の相手について何一つわからない。
それでもこの馬鹿者に巫女の夫という重大な役割を与えるより何十倍もいいし、民からの信頼も得られる。現在の状況では、巫女とセインの婚約を反対する者も多い。現に息子の言葉に出すのも憚られる悪い一面は多くの者に知られ、影で噂をされたり笑いものになっている。
それを払拭させる為に「品行方正」を命じたのだから、根っからの馬鹿のセインがそれを守れないわけがない。いや、そもそも品行方正から普段の状況に戻っていいと言ったのはナーバル。息子を思い通りに動かす為とはいえ、何ということをしてしまったのかと後悔する。
再び、品行方正を命じ息子の行動を縛り付けた方がいいか。いや、それをすれば反動も大きい。娼婦相手に宜しくやらせているので、現在の状況で何とか済んでいる――と思いたいが、ナーバルの脳裏にフィル王子の件が過ぎり、何とか済んでいるどころか大事になっていると顔を歪ます。
高い学問を身に付けさせようと、優秀な家庭教師として雇い息子に勉学を学ばせた。それにより一時的に優秀な人物へ成長し将来を期待することができたが、今は身に付けた知識は何処かへ別の世界へ吹き飛んでしまい、親の脛を齧り続ける馬鹿息子に変貌してしまう。
こうなってしまったそもそもの原因は、何処にあるのか。必死に父親のご機嫌を取ろうと媚を売る息子の顔を凝視しながら、歴史を遡るように息子の行動をひとつひとつ思い出していく。
家庭教師をつけ、勉学を学ばしていた当時は普通の人物だった。プライドが高い半面気弱な部分が目立つ人間だったが、現在のように欲望中心で行動を決めるより何十倍もマシだ。
なら、何か――
思い出したのは、一族の人間の顔。その者はセインを可愛がり、俗世間での出来事や内容を吹き込んでいた。そしてセインに娼婦の存在を教え、娼館に連れて行った可能性が高い。
世間知らずのお坊ちゃまが百戦錬磨の娼婦相手に太刀打ちできるわけがなく、当初はいいように弄ばれた。しかし、一度覚えてしまった女の肉体。そう簡単に忘れることはできず、当時のセインは何度も親の目を盗んでは娼館に通っていたが、今では堂々と通うのだから質が悪い。