新緑の癒し手
温もりの中で、別の意味でフィーナの心がざわめきだす。ダレスが言葉で示しているように、愛し合っていても互いに結ばれることはない。感情の起伏によって、変貌してしまう彼の肉体。フィーナがそれに付いて「それでもいい」と言っても、彼が首を縦に振るわけがない。
結局、深く互いを想い合っていても引き裂かれる非情な運命に彼等は置かれていた。本当に手立てはないというのか――そうフィーナは問うが、ダレスの回答は「ない」というもの。それに竜の者が癒しの巫女と交わり子を生したのは、自分の両親が最初で最後だと話す。
「でも、何処かに……」
「いや、これでいい」
「嫌っ!」
「貴女が俺を想ってくれただけで、それでいい。それ以上は何も……俺は、望む立場じゃない」
「そんなことはないわ。誰だって、幸せになることを望んでいいはず。それに、探す前に諦めるのはいけないわ。以前のダレスだったら、弱音を吐いたいりないはず。もっと強いわ」
「俺は、貴女が思っているほど強くはない。感情を表面に出すことをしなかったから、強いと見えていたのかもしれない。だけどそうしなければ、神殿内では一人で生きていくことはできなかった。誰も手を差し伸べてはくれない。この血の影響で、偏見の眼差しを向けてくる。それが、人間の本音。だから欲望のままに採血を強要してくるあいつらから、貴女を護ろうと思った」
だが、人間全員に憎悪を抱いているわけではない。一部の人間はダレスに好意的で、協力してくれる。それどころかダレスを一方的に批判するのは間違っていると言い、擁護もしてくれた。
特にフィーナとの出会いはダレスの複数の影響を与え、封じていた感情に作用しだす。ダレスは暫しの沈黙の後、言葉を続けていく。自分がフィーナを護りたいと思うのは、彼女が「癒しの巫女で、多くの人間に敬愛されているから」という理由なのか、途中でわからなくなってしまった。
勿論、最初は巫女の身体を第一に考え、必要以上の採血を行わせないように見張らないといけないと義務感で動いていた。また、母親との約束を守らないといけないと自分に言い聞かせ役割を果し続ける。それが正しい行為と認識し、自分ができる唯一の方法と思っていた。
そのような中でフィーナに抱いている感情が関係していると気付いたのは最近のことで、結果自分の意思に反して変貌してしまう肉体に絶望し彼女の目の前で肉体を傷付ける羽目となった。しかしその行為によってフィーナを泣かしてしまうことになり、馬鹿なことをやってしまったと後悔が続く。