新緑の癒し手
ダレスの心情にフィーナは頭を振り、ありのままの自分を表現することはおかしくないと話す。肉体の変貌を恐れ感情を表さなかったことの方がフィーナにとって寂しく、今のダレスの方が何倍もいい。だからといって、自分自身の肉体を傷付けるのは止めて欲しいと付け加える。
フィーナの深い愛情にダレスは目を細めると、躊躇いつつもそっと震える手で彼女の細い身体を包むように抱き締める。いつものダレスから考えられない突然の行動にフィーナの身体が一瞬震えるが、彼が見せた愛情の示し方を素直に受け入れ、抱き締める腕に力を込める。
「今、このような状態では、貴女に愛を囁くことはできない。囁いてはいけない。だけど……」
「うん」
「だけど、こうやって……」
それ以上の言葉が続けられることはなかったが、フィーナにとってはこれで十分であった。ダレスと出会った当初、彼は感情を表面に出さず何を考えているのか全くわからなかった。しかし今はぎこちないながらも感情を表し、このように不器用ながらも抱き締めてくれる。
だが、フィーナは真の意味で彼が普通の生活を送れるようになってほしいと願う。血の呪縛を気にすることなく自由に生きていければ、どれほどいいものか。ダレスは望む立場ではないと諦めているが、方法を模索する前から諦めていいものではないとフィーナは思う。
何処かに。
必ず。
フィーナは意を決すると、血の呪縛を打ち消す方法を探すと告げる。それはダレスに対してのお礼の気持ちであり、自分は受け取る側であって何かを与えることはしなかったと話す。
彼女の意見にダレスは、癒しの血を人々に与えているので何かを与えることはしなかったという発言は間違っていると指摘するが、フィーナはダレスに血を与えたことはないと言い彼の顔を見詰める。
その真っ直ぐな瞳で見詰められると、ダレスは何も言えなくなってしまう。それに心の片隅に浮かぶのは、彼女と一緒に探せば本当に方法が見付かるのではないかという甘い期待。
「貴女が、そう望むのなら」
一途の望みに縋るのも、悪いことではない。ダレスがそう思えるようになったのもフィーナとの出会いが関係し、彼女との日々のやり取りが影響する。まさに巡り合わせというべきか、絡み合いきつく結び付いた運命の糸の先に明るい未来が待っていることをダレスは願う。