新緑の癒し手
刹那、急にダレスが苦しみ出す。彼の突然の姿にフィーナは焼き菓子によって中毒を起こしたのだろうと勘違いしたのか、食べた焼き菓子を吐き出した方がいいと促す。しかしダレスは頭を振りそれは違うと否定し、それどころか自分の側から離れた方がいいと忠告する。
フィーナとのやり取りの最中、ダレスは強靭な精神力で無理に血の呪縛を抑え付けていた。しかしそれも限界が訪れたらしく、肉体は徐々に変化しだし本来の竜の姿に戻っていく。
彼女の目の前に現れたのは、緑柱石(エメラルド)の鱗を持つ一匹の竜。だが、その正体がダレスだと知っているので、フィーナは竜に向かい微笑み彼の鼻先に触れると「ずっと、一緒に――」と、囁く。
彼女の想いが籠められた言葉にダレスは軽く頭を垂れると、低音の唸り声を発する。それが彼なりの彼女への精一杯の返答方法であり、自分自身の意思を示すやり方。言葉で明確な返事はなかったもの、それでもフィーナは彼の気持ちを知りそれを胸の中に仕舞い込む。
「……有難う」
やっと互いの想いを繋げることができ、フィーナの目元が木漏れ日によって光り輝く。勿論、乗り越えなければいけない問題は山積しているが、ダレスと共に歩んでいくのなら乗り越えられるだろうと、フィーナは苦しい神殿での生活の中で見付けた一筋の光に縋り付くのだった。